Emil und die Detektive エーミールと探偵たち

くらし

映画『エーミールと探偵たち』が9月24日に封切られました。エーリッヒ・ケストナーの児童書が刊行されたのは1929年です。100年近く経ちます。この間に、今回のを入れるとドイツ国内だけでも4度、映画化されたことになります。

この映画なら(日本語字幕がなくても)ある程度わかるだろうということで、観にいくことにしました。

ドイツでは、児童の鑑賞制限が細かく決められています。今回の『エーミールと探偵たち』は、「FSK ab 6 freigegeben」(6歳未満の子どもは入場不可)です。

たとえば、『となりのトトロ』などは年齢制限がありませんが、『千と千尋の神隠し』は6歳、『もののけ姫』は12歳、『アキラ』は16歳以下に制限がかかります。

ベルリンでこの映画を上映している映画館は(たぶん)23箇所以上あります。映画館によって入館料金が異なっていて、大人の一般料金は10~13€といったところです。

近所に、創業1913年の「Eva Kino」という映画館(250席)があると知って、訪れました。大人料金は10€(映画の日は7€)です。

日曜日ですが、観客は多くはありませんでした。たいていの観客が、大きなポップコーンの箱と飲み物を買って入ってきます。

現代の、SMSや動画投稿に振り回される子どもたちの世界や、クラスの半数以上(学校によっては9割)が移民の背景をもっていたり、ドイツ語が全く通じない場所がたくさんあったりする、ベルリンが描かれています。上映中は、笑いがたびたび起こっていました。いっしょに笑えたのは(つまり聞き取れたユーモアは)わずかでしたが。

映画『エーミールと探偵たち』ワーナー・ブラザーズ

WarnerBros.de | Emil und die Detektive | Filme
Emil soll die Sommerferien bei seiner Oma in Berlin verbringen.

映画が終わって、床に落ちたたくさんのポップコーンを横目に、清掃係の人に軽くあいさつして、シアタールームの外に出ると、なんと、観客の行列が店の外まで続いていました。見るからに65歳以上の人たちばかりです。なんとも対照的です。

並んでいる人のなかに、教会コーラスのメンバーを見つけたので尋ねると、これから観る作品は『Alte Liebe』(直訳:古い愛)で、10月8日に封切りされたばかりとのことでした。映画はよく観にくるのだそうです。

『エーミールと探偵たち』に話をもどすと、実は、近いうちに映画が封切られるとは全く知らなかった夏休みに入ってすぐの頃、近所の小学校の図書館で本を借りて読んでいました。

楽しいのは、1929年当時のベルリンの様子が、地名入りで、ユーモラスに描かれていることです。あの Rohrpost(郵便物を筒に入れて送る、気送郵便)のことや、当時、問題になっていた銀行強盗の話なども、セリフに上ります。

小説の発刊されたわずか2年後の1931年には、もう映画化され上映されていることがわかりました。当時の様子が映像に残っているというので、興味津々です。図書館には残念ながらなかったので、DVDを注文しました。届いたDVDには、1931年版と、さらに1954年版の、2つの映画が収録されていました。

1931年の映画は、展開がとてもスピーディで、ベルリンの多様な側面が、目まぐるしく映し出されています。しかも、世界初のトーキー(発声)映画の上演が、そのわずか2年前の1929年ですから、どれほど新鮮に見えたかが想像できます。

小説に出てくるとおり、エーミールは、よく気がついて、思いやり深くて、才気煥発で、ヒーローらしく描かれています。登場する子どもたちがみんな、それぞれの力を思い切り発揮して、大人たち以上の活躍をして、友情を深めていきます。きっと見ている子どもたちにも心踊るものがあったでしょう。

とくにおもしろいのは、セリフの多くが忠実に再現されていることです。そのまま喋っても生き生きとした映画になっています。

ただ、私の好きな場面はカットされていました。Professor プロフェッサー(教授)というニックネームの、司令塔の子どもが、他の子どもたちを戒める場面です。ケストナーのメッセージを強く感じる箇所です。

「Traugott : Wir werden ganz einfach die Gelegenheit abpassen und ihm das Geld, das er geklaut hat, wieder klauen! (ぼくたちは、ただチャンスを待って、盗られた金を盗み返せばいい!)」

「Professor:Quatsch! Wenn wir ihm das Geld klauen, sind wir ganz genau solche Diebe, wie er selber einer ist! (バカ言うな。盗み返すというのなら、僕らもやつと同じ泥棒だろ!)」

この映画は、メッセージ性を省いて、 ベルリンの様子を愉快に活写することのほうに主眼を置いた、ということかもしれません。(最新作にもそういう傾向があるのを感じます。)

ポツダム広場の信号塔が、まだ現役です。
カイザーヴィルヘルム記念教会は、破壊される前の完全な状態です。
当時、ベルリンの中央駅のような役目を果たしていたフリードリヒ・シュトラーセ駅に、機関車が入ってきたシーンです。
乗り物もいろいろ出てきます。馬車、二階建てバス、路面電車、タクシー、自転車など。男の子が乗っているキックボードは、流行の Roller ロラーで、木製の簡単な作りだったそうです。
原作にはない、泥棒が宿泊するホテルの部屋に忍び込んで、枕の下の財布を奪うという脚色は、この映画から後ずっと引き継がれていきます。
最後の場面は、母が電車でベルリンにやってくるのではなく、子どもたちが輸送機に乗って、エーミールの故郷に行くという脚色になっています。

残念ながら、この映画のわずか11か月後の1933年には、ナチスが政権を掌握します。ケストナーの著作も焚書の対象になりましたが、この『エーミールと探偵たち』は、禁止こそされたものの焼かれなかったのだそうです。

1939年に始まった世界大戦には、子役だった彼らも参戦します。エーミールに扮した青年も、愛らしい演技をしたニックネーム Dienstag(火曜日)役だった青年も、そこで命を落としたのだそうです。

こちらは1954年版の映画です。カラー映画になっています。

復興していくベルリンを世界に発信する、という意味もあったのでしょうか、脚色が大げさになっている嫌いがありますが、あの Professor(教授)のセリフが挿入されていました!

カイザーヴィルヘルム記念教会は、破壊されてしまっています。
最後の場面では、お母さんが旅客機に乗って、ベルリンにやってきます。

これは、地下鉄に乗ったついでに、すこし聖地巡礼をしたときの現在の写真です。

地下鉄駅の門は、撮影(1931年)当時のままです。
子どもたちが作戦会議をした場所には、モニュメントが作られていました。