朗読&トークイベント『ゲーテはすべてを言った』

ことば

日独センターで、芥川賞受賞作家の鈴木結生さん(25歳)を迎えて、朗読イベントがありました。

せっかくの機会なので、参加させてもらおうとおもって、その日の朝になって『ゲーテはすべてを言った』をダウンロードしました。

まさか、こちらに来て日本の小説を読むとは思っていませんでした。辞書を引かなくても読める気楽さや、日本語の能力を与えられている幸運を、よろこび感謝する時間になりました(笑)。

地下鉄の駅 Oskar-Helena-Heim オスカー・ヘレナ・ハイムを出ると、左斜め前に見えるのが、日独センターです。

これは、鈴木結生さんご自慢(?)の「へのへのもへじ」です。このゲーテの顔にはGOETHEの文字が入っています。

鈴木さんは、この部屋に入ってこれを見て、愕然としたそうです。「r」の文字が抜けていたからだそうです。自分で書いたものの間違いには気づきにくいものです。さすがにこれには校正が入らなかったのですね。

以下は、『ゲーテはすべてを言った』の冒頭部分、鈴木さんご自身の朗読です。

同じ箇所のドイツ語訳の朗読があり、たいへん興味深いものでした。

朗読は、第1章からと、第4章からの、2箇所でした。とくに第4章の、光と色についての件は、私のお気に入りの部分だったので、翻訳の朗読が、染み込むように聞こえてきて、それもうれしかったです。

トークの時間は、通訳の人(が大活躍)も加わって、たいへんおもしろいものでした。鈴木さんは、明るく開放的な人柄で、会場に笑いが起こり一体感が生まれるのに、時間は要りませんでした。

鈴木さん自身は、ドイツ語を話さないどころか、ドイツに来たことさえなかった、ということには、ほんとうに驚きました。

ルターが新約聖書を書いた部屋の描写や感銘が、小説にはありありと書かれていますが、「実は、昨日、初めて、ヴァルトブルク城の部屋に行きました」とのこと。

鈴木さんは、ゲーテではなくて、シェークスピアを愛する人で、キリスト教者なのだそうです。ルターのあの部屋の描写は、キリスト者だから(見ていなくても)書くことができたのかもしれないなと思いました。

質問の時間は、定刻を過ぎても終わらないほど、熱気を帯びていました。

あるドイツ人は、日本には、タグに名言の書かれた紅茶バックが、ほんとうにあるのか、と聞きました。

それに対して、鈴木さんは、ずっと忘れていたけれども、今、思い出した、2年ほど前に両親の銀婚式で、父親が引いた紅茶パックにゲーテの言葉が書かれていた、そこで、ゲーテ研究者にその娘が、その言葉について尋ねる、というシーンを思い描いたことがあった、と話していました。

ところで、「ゲーテはすべてを言った」というフレーズが、日本のゲーテ研究者の界隈でまことしやかに語られる、ということで、ほんとうに存在するのかどうかは、小説では明らかにされていませんでした。

しかし、この日、最前列にいた高齢のドイツ人女性が、「ゲーテはすべてを言った」というフレーズはほんとうに存在する、50年ほど前に広島大学で、ドイツ人の夫が3年間、教鞭をとっていたが、そのときに日本の学生たちにもそれを言っていたはず、と語っていました。

鈴木さんは、受賞当時に比べると、ずいぶんほっそりした感じに見受けられましたが、こうしてあちこち飛び回って、忙しい日々なのでしょう。

どうか、これからも多くの佳い出遇いがありますように。そして、いつの日かシェークスピアやキリスト教について、佳い作品が生まれますように。